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『大和(カリフォルニア)』『TOURISM』で国内外からの熱い注目を集めた俊英・宮崎大祐監督最新作は、ディープな大阪のさらに奥へと進んだ、異世界で繰り広げられる、今まで見たことのないモノクロスリラー。29歳の愛は、一夜を共にした男に情事の動画をネット上にばらまかれたことから精神を失調していく――。自分の映像が世界中に拡散される計り知れない恐怖と、助けを求めても自分を責めるような周りの視線。被害者が否応なく孤立する現状をえぐり出していく。日常の何気ない裂け目から見えてくる、確かに存在する異世界を、モノクロームでとらえた衝撃作が誕生した。
ヒロイン・愛を体当たりで演じたのは、サニーデイ・サービス「セツナ」のMVでブレイクした廣田朋菜。さらに『リリイ・シュシュのすべて』で注目を浴びて以来、独特の存在感を放ち続ける忍成修吾や、イラン出身のタレントで、女優としての活躍も目覚ましいサヘル・ローズの怪演にも注目してほしい。サントラは日本のみならず海外でも人気を誇るBAKU(KAIKOO)、エンディングテーマは大阪出身の大人気ラッパーJin Dogg、ヌンチャクらによるオリジナル曲だ。 モントリオール新映画祭での「魅惑的かつ凄惨!」との評を受け、今年3月の大阪アジアン映画祭の国内プレミア上映は全回満席となった。さらにフランスのアサイヤス監督は「見事な作品」と惜しみない賛辞を送る。世界が注目する日本映画の劇場公開が満を持して決定した。
東京で女優になるという夢破れて故郷・大阪のコリアンタウンに帰って来た29歳の愛はそれでも夢をあきらめきれず、実家に住み、バイトをしながら演技のワークショップに通っていた。そんなある日愛はクラブで出会った男と一晩限りの関係をもつ。数日後、愛はその夜の情事を撮影したと思われる動画がネット上に流出していることに気づく。そしてすぐに男の家を訪れるが、愛は何も言い出せない。その後も連日、その夜のものと思われる動画がネット上に投稿される。もう一度男の家を訪れた時、すでにもぬけの殻だった。自分のものとは断言できないが拡散し始める映像に、愛は徐々に精神を失調し始める――。
CREDIT
監督・脚本|宮崎大祐
音楽|BAKU(KAIKOO)
プロデューサー|西尾孔志
撮影|渡辺寿岳
録音|黄永昌
製作|DEEP END PICTURES、十三・シアター・セブン

出演|廣田朋菜、忍成修吾、芦那すみれ、梅田誠弘、サヘル・ローズ、辰寿広美、森田亜紀

2019年|日本|88分|モノクロ|1:1.85
配給・宣伝:boid/VOICE OF GHOST
宣伝協力:クエストルーム株式会社
©「VIDEOPHOBIA」製作委員会
監督・脚本|宮崎大祐 Miyazaki Daisuke
1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、映画美学校を経てフリーの助監督として活動。2011年、初の長編作品『夜が終わる場所』を監督。サンパウロ国際映画祭、トランシルバニア国際映画祭など世界中の国際映画祭に出品され、トロント新世代映画祭では特別賞を受賞する。2013年にはイギリス・レインダンス国際映画祭が選定した「今注目すべき日本のインディペンデント映画監督七人」に選ばれる。長編第二作『大和(カリフォルニア)』はタリン・ブラックナイト映画祭など様々な国際映画祭に出品され、VarietyやHollywood Reporterなど国際的に影響力のあるメディアでも絶賛された。シンガポール国際映画祭との国際共同制作である長編第三作『TOURISM』は昨年全国公開され、話題となった。
FILMOGRAPHY
長編監督作
『夜が終わる場所』(2011年、79分)
『5TO9』(2015年、80分)
※日本、タイ、中国、シンガポールによるオムニバス映画『5TO9』の日本編を監督
『大和(カリフォルニア)』(2016年、119分)
『TOURISM』(2018年、77分)
『VIDEOPHOBIA』(2019年、88分)
脚本作
『孤独な惑星』(2010年/筒井武文監督)
『ひ・き・こ 降臨』(2014年/吉川久岳監督)
『ひかりをあててしぼる』(2016年/坂牧良太監督)
青山(朴)愛
廣田朋菜|Hirota Tomona
1987年生まれ。『オペレッタ狸御殿』(05 鈴木清順監督)、『猫目小僧』(06 井口昇監督)、『恋するマドリ』(07 大九明子監督)など多数の映画に出演。TBSドラマ「ドラゴン桜」「再婚一直線!」、テレビ朝日ドラマ「ハラハラ刑事」、日本テレビドラマ「ギャルサー」「美食探偵 明智五郎」、NHKドラマ「トットてれび」などで活躍。サニーデイ・サービス「セツナ」のMV出演でも知られている。
橋本宏
忍成修吾|Oshinari Shugo
1981年生まれ。岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』(01)で主人公をいじめる破壊的な中学生役を演じて注目を浴び、『青い春』(01 豊田利晃監督)や『バトル・ロワイアルII 鎮魂歌』(03 深作欣二・深作健太監督)、『ヘヴンズ ストーリー』(10 瀬々敬久監督)、『さよなら歌舞伎町』(15 廣木隆一監督)等に出演。公開待機作として「本気のしるし≪劇場版≫」(20 深田晃司監督)がある。
木下悠
芦那すみれ|Ashina Sumire
大阪府出身。21世紀の女優発掘プロジェクト舞台「転校生」で女優デビュー。長編映画初出演となる『ジムノペディに乱れる』(16 行定勲監督)ではヒロイン山口結花役を務める。翌年、カナダで気鋭の演出家マリー・ブラッサール演出の舞台「この熱き私の激情」に出演し、その独特な演技と存在感で注目を集めた。映画・ドラマ・CM・舞台など活動の幅は多岐にわたり、出演作に『月極オトコトモダチ』(19 穐山茉由監督)、『五億円のじんせい』(19 文晟豪監督)などがある。
被害者の会会長
サヘル・ローズ|Sahel Rosa
1985年イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母とともに来日。高校生の時から芸能活動を始め、舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、映画『西北西』や主演映画『冷たい床』はさまざまな国際映画祭で正式出品され、イタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。映画や舞台、女優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。芸能活動以外にも、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めている。また、アメリカで人権活動家賞を受賞する。今後も世界中を旅しながら難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちと共にいきていく事が目標。
音楽
BAKU(KAIKOO)
1978年東京生まれ。DJ/トラックメイカー/プロデューサー/ターンテーブリスト。16歳のころにDJのキャリアをスタートさせる。1990年代後半に般若とRumiとともにヒップホップ・グループ、般若で活動。グループ解散後、2003年にMSCのデビュー・アルバム『Matador』に収められた「Matador Office」の制作を機にトラックメイカーとしての活動を開始。2009年、日本を代表する12人のラッパーをフィーチャーした『THE 12JAPS』をリリース。同年都市型音楽フェス〈KAIKOO POPWAVE FESTIVAL’10〉を東京晴海客船ターミナル特設ステージで開催。2日間で1万人以上が集まる。近年は新境地へ向かうため自ら新レーベル、〈KAIKOO〉をスタートし、いとうせいこうや七尾旅人とのコラボレーション、渋谷慶一朗ややくしまるえつこ(相対性理論)の楽曲のリミックス、KYONO(ex.THE MAD CAPSULE MARKETS)とのユニットの結成、アニソン DJ、ブローステップやダブステップを取り入れたDJプレイなど、ジャンルを越境した活動をますます積極的に行っている。2020年11月、待望のNEW ALBUM発売予定。現在制作進行中!
語り:宮崎大祐
製作のきっかけ
2年前『大和(カリフォルニア)』が大阪で公開された時に、プロモーションのために数週間ほど大阪に滞在したのです。滞在費を稼ぐために何かできないかと、映画監督で、『VIDEOPHOBIA』のプロデューサーである西尾さんに相談したところ、俳優ワークショップの講師を提案されました。大阪の芸能事務所に所属する俳優たちへのワークショップでした。でも、実はワークショップは苦手で…。スタジオでいくらエチュードを練習してもそんな短期間で演技が上達するとは思えないし、それで自分が安くはないお金をもらうのは性に合わない。なので、せっかくやるなら実践こそが最高の学習だということで、短編映画を撮ろうという話になりました。しかし短編映画も尺が足らず言葉足らずになってしまうので不得意で、西尾さんに「もう少しだけ長くできないか」と提案し、脚本を見せたところ「これはミニマルだが長編として成立するのは?」と言われ、撮影することになったのが『VIDEOPHOBIA』です。撮り進めていく中でみな欲が生まれ、限られた条件の中でそれを具現化するために工夫しているうちに、どんどん面白くなっていきました。話の流れはワークショップの2週間前に思いついて5日間ぐらいで脚本を書きました。大元になるアイデアは以前大阪に行ったときにイメージが降ってきました。何ヶ月か前にタイトルは思い付いていて、それからイメージ写真を探して、最後に脚本を書きました。タイトルは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』が好きだったことと、幼なじみにカメラのレンズが怖くて、デバイスのレンズを全てテープでふさいでしまう友人がいて思いつきました。「VIDEOPHOBIA」という言葉自体も存在はしているのだけれど、なかなか一般的な言葉ではないし、検索に引っかからないと存在していないのに等しい今の世の中に問うにはふさわしいタイトルと考えました。
ロケーション
8歳から14歳まで兵庫県の西宮市に住んでいて、大阪にもよく遊びに行っていた記憶があり、いつか大阪を舞台に何かできたらと思っていました。過去に田中登や大島渚など多くの監督が大阪の街を魅力的に撮っていますが、近年の映画には我々が持つ典型的な大阪のイメージを壊すものがないように感じていました。

近年は大阪に行くたびに西尾さんと景色が面白い場所を巡っていました。その中でも面白いと思ったのは様々な文化や歴史が混じり合う鶴橋界隈でした。コリアン・タウンと近世日本家屋がシームレスに連なっている。西成も面白い場所ですが、撮影がやや難しそうなのと、作品のフォーカスがそこだけになってしまいそうな気がしました。見世物的な映画にはしたくなかったのです。鶴橋での撮影に全然苦労はありませんでした。通行人の方はほとんどカメラを意識しないし、とても撮影しやすかったです。
キャスティング
廣田朋菜さん、忍成修吾さん、サヘル・ローズさん、芦名すみれさん、梅田誠弘さんなど柱の役以外はほとんどがワークショップの若手俳優たちです。プロの方々にやってもらわないと全体のフィクション・ラインが崩壊してしまうかもしれない箇所はプロデューサーの西尾さんに相談して、プロの方々にお願いすることにしました。

ヒロインの愛を演じた廣田朋菜さんは、田中羊一監督の映画の現場でお会いして、不思議な顔の女優さんというのが第一印象でした。彼女は劇中「イザベル・ユペールになりたい」と言っていましたが、彼女の顔からもまさにユペールのような、本心がわからないような印象を受けます。方言に関しては、愛は関西出身だが関東帰りで、関東弁寄りの関西弁という設定だったので、少しだけ特訓しました。彼女はこれまでこういったミステリアスな役をやったことがなかったので、撮影前の何日間か、廣田さんを観察させてもらいました。演出上必要な時間でした。

謎の男・橋本を演じた忍成修吾さんは、以前、私が脚本を担当した映画『ひかりをあててしぼる』に主演していて、飲みに行ったりする仲でした。岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』の頃からずっとファンだったので、自分の監督作でいつかご一緒したいと思っていました。忍成さんの超然とした存在感が、本作の役に合うと考え、恐る恐る依頼したところ、快く受けてくださいました。「同世代の監督と併走したい」というありがたいお言葉までいただきました。
音楽
音楽は撮影前からBAKUさんに依頼していて、ラッシュからお渡ししました。その昔Back to Chillというダブステップのイベントによく行っていて、こんなに禍々しくて攻撃的なダンス・ミュージックがあるんだ!と思い、いつかこういう音楽を自分の作品にと思っていた矢先にBAKUさんと知り合いました。ぼくは作品毎に違うジャンルの音楽を取り入れたいので、今回はベースミュージックで行こうと。エンディングテーマはJin Doggなどが映画を見てから制作してくれました。彼は大阪・鶴橋育ちで、映画に出演してもらいたかったのですがスケジュールが折り合わず、エンディングテーマでの出演となりました。他にも千葉の伝説的ハード・コアバンドのヌンチャクさん、ドラマーのTomy Wealthさんも参加してくれました。様々な要素をDIY的に取り入れる、まさにヒップホップ的な映画作りで、楽しい作業でした。
見事な作品だ。現実的であると同時に、完璧に夢幻的だ。
主演の女優は非常に強い映像的存在感を持っていて、素晴らしい。彼女はとても身体的で、自然で、それでいて神秘的だ。
そしてこの映画自体も同様の性質を持っていると言える。シンプルで、エレガントで、明晰で、反復の中に日常生活の神秘とも言える何かを捉えている。
主演の彼女は他の誰かになることでその秘密の探求を遂行するのだ。
オリヴィエ・アサイヤス
映画監督
オープニングからモノクロ映像に惹きつけられ、そのままずるずるぐいぐい監督の世界に引きずり込まれた。リアルで不気味、そして幻想的で破壊的なエネルギーが画面から溢れ出る!すげ〜映画を観た。この映画は癖になる!恐るべき監督宮崎大祐…!
竹中直人
俳優・映画監督
現代日本の若者のリアルな日常に潜む危うさをスリリングに描きながらも、ヌーヴェルヴァーグの香りがぷんぷん匂う。こういうの私は好きです。
小泉今日子
女優
傑作はいつも予言的だ。これはコピーだらけでどこにも本物がないネットの世界の悪夢を描き、そのあとに出現したコロナウイルスの世界へまで浸食していく。今度はネットではなく、我々の中でコピーが増殖するのだ。
いがらしみきお
漫画家
淡々とモノクロで描かれる大阪の若者の日常…かと思ったら全然違う話でした。ホラー。モンスターのいないホラーストーリー。
山本直樹
漫画家
生々しく、なかなかのサスペンスだ!いつも青春は悲惨だ。俳優たちが何よりリアルで、その演出力に引き込まれる。
井筒和幸
映画監督
いいモノクロ映画って不思議なもんでじっと観てるうちにどんどん眼の中で白と黒とグレーの境界が細分化されてきて、石膏像の表面の影のグラデーションを舐め回すように観たりペタペタ触りまくってみたり、そういう感覚なんですよね。その視覚の触感とも言える感覚がこの作品にすごく合ってて、つまり主演の廣田朋菜氏の顔に合ってました。エロチックでミステリアスでやさぐれてる、野良猫の目をしたヒロインに魅了される、色がないのに無数の色を感じる不思議な2時間でした。
東村アキコ
漫画家
水の都で生きる主人公の経験する、耐え難いはずで許し難いはずの陰惨な出来事が、何かつかみ所のないものであるかのように思えてくる。鈍い麻痺に似た、全てが流されていくような危険な感覚に、観る者を陥らせる。
岡田利規
演劇作家/小説家/チェルフィッチュ主宰
恐ろしい映画だった。ぼくなんかは恐ろしすぎて、観終わってなお、心が震えている。それはそうと、廣田朋菜が時折り『アルファヴィル』のアンナ・カリーナに見えるときがあった。
曽我部恵一
ミュージシャン
思っていた人生と違う道に踏み入ってしまったときの、視界の仄暗さ、不規則な揺れのおぼつかなさ。光と闇のグレースケールのなかで、アイデンティティーの剥離と癒着が同時に去来する怪作。
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト
全体として生きざるを得ない現代の子 その哀しみと混乱
上田岳弘
作家
おいおいおいしっかりしろよ!終始しかめっ面で。けどまあ私もダチもいつでもこうなり得る。
valknee
ラッパー
宮崎大祐は現代社会に生きる私たちを日々むしばんでいる不安を、あるひとりの女優と凄まじく鋭利な視覚演出を通して見事に描き出した。分裂する、この「超」現代的な悪夢に瞠目せよ。
ベンジャミン・イリォス
カンヌ監督週間プログラマー
『VIDEOPHOBIA』で宮崎大祐はその異能と多才を確たるものにした。この実存的ホラー映画は奪われたアイデンティティやプライバシーの侵害、そして現代のイメージ消費文化がもたらす疎外について語っている。粗いモノクロームで撮られた本作は勅使河原やフランジュといった過去の巨匠たちへの目配せも忘れない。過去だけでなく現在と未来にも焦点を合わせ、宮崎大祐は一歩一歩、誰にも真似できないフィルモグラフィーを築き上げていく。
アリエル・エステバン・ケイエ
ファンタジア国際映画祭プログラマー
白と黒の町を無数のカメラが浮遊する。まるで撮影者でなく、カメラ自身が意志をもって撮影「させている」かのように。その目からは誰も逃げることができない。着ぐるみを着ていても、あたらしい名前が得られても、たとえ、スクリーンのこちら側に座っていたとしても。
いしいしんじ
小説家
科学技術と手に手をとった誰何の世界で、〈私〉は交換可能であるとするか、それは〈私〉ではないと否認するか。主人公よりもむしろ観客に蔓延したその意識のみが二人の女を一本の物語に見させる。カメラは余震のように揺れ、人間を多元化し、世界の断層を増やしていく。行と行のあいだの幽霊をとりだすように。
五所純子
文筆家ー
巨額の予算のお送りする綺麗でだらしない映像に慣れきって、世界はつながっていると根拠なく拝みたてるつぎはぎのありよう、見えない未来の崩壊を映しだす傑作。
荏開津広
DJ /ライター /京都精華大学非常勤講師
Jホラーの国からようやく生まれた、古典の風格をまとった最先端のポストホラー作品。もしA24で映画を作る日本の監督が現れるとしたら、宮崎大祐はその最有力候補だろう。
宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト
この世界はカメラと画面と顔面と、各種恐怖症も応相談のワークショップだらけ。そこに鈍重に斬り込んでゆくのは、二つの名前を持たされた彼女の、亀裂のような二つの眼。鉱物製の近代の底で静かに正気を保っているメンフクロウは、500万年分の欲望に窃視された彼女に自分そっくりな二つ目のメンを提供する。そんな恐ろしい『VIDEOPHOBIA』なのに、まるでエロス+女のみづうみ(!)みたいな美しさとクールネス。見てる間しびれっぱなしですよ。宮崎監督ありがとう!
冨永昌敬
映画監督
観せられていることは果たして本当に起こっていることなのか。
現実と妄想との境界が曖昧になるような、足場をふと外されるような、そんな不安が映画には充満している。何がリアルで何がそうでないのか。
ひとつだけ確実なのは不安だけがリアルだということだ。
てらさわホーク
映画ライター
内側と外側、現実と想像…分離した精神を果たして”演劇”はジリジリと乱暴に引き裂いているのか?それとも無理矢理にすり寄せているのか?主人公の離人した精神の象徴でもあるかのような着ぐるみのシーンが入ると、表層的な人間味について自問自答してしまう。映画を見た私自身も無作為に人ではない視線が気になって仕方ない。そういえば私はインスタグラムのストーリーに自分の裸の写真をアップした事がある気がして、私の裸を見てないか沢山の友達にLINEした。とある白昼夢、いい鼻歌が思いついた時、焦りすぎて夢の中のiPhoneでボイスメモに録音した。それらの物語を空想と現実の狭間に落っことして手が届かない。
なみちえ
ラッパー/着ぐるみ作家
大胆で繊細。『VIDEOPHOBIA』の第一印象だ。観客を共犯者にしてしまう冒頭から偽悪的な装いに満ちているが、それが作り手の社会および映画に向ける批評性にほかならない。その犠牲者を演じる廣田朋菜が全身を映画の魔に投げ出し、捧げ尽くす様は、男性から憎しみの眼差しを浴び続けた「ジャンヌ・ダルク」さえ想起させてしまう。彼女を包み込む諸問題は、映画五本分くらいの容量なのだが、宮崎大祐はその都度、観客の期待を躱しつつ、横滑りする。ここには、結論という捏造された下品さが徹底的に回避されているのだ。その手つきは、思わずブニュエルと呟きそうになるが、ここでの各挿話に対する距離感の変化は、ブニュエル的単純さを超えている。ともあれ、この現在におけるジャンヌ・ダルクの変身譚は、観客の想像力をはるかに超えたアンチ・クライマックスに至る。これは映画史を転覆させようとする悪意なのか。いや、悪意すら宙吊りにされる。深読みすれば、新しさを装った現代映画の偽善性への告発にまで及ぶ。『VIDEOPHOBIA』が時代を逆行した正統性を獲得していることへの戸惑いは強まるばかりである。
筒井武文
映画監督
クリック、ワンタップで私という存在が拡散していく世界。リアルの世界はソーシャルディスタンスになっていくのにネットの世界は私のことをなにも知らないくせに密接どころか、奥まで深いソーシャルだ。面白いという表現があっているかわからないが、この映画は人間の欲望の塊の黒い渦のようだった。
韓英恵
女優
他者からの視線にはしばしば権力と欲望が含まれる。私たちはそれらを恐れ、批判し、告発し、しかし同時に(忘れてはならない!)望み、楽しんでもいる。私たちは自らの/他者からの視線と共に生きている。私たちは一体何者なのか。そしてそのカメラから逃れようとするとき、私たちは一体どこに行くのだろうか。
大寺眞輔
映画批評家
見慣れたはずの原色の街が、白と黒の世界に閉じ込められ、さらに鮮烈な色彩を放つ。減法の豊穣。想像力が物語と思考を高く羽ばたかせる。
青木理
ジャーナリスト
大阪・夏の夜。不穏な空気が漲る鶴橋、梅田、西成の街。自分の家族も夢も人生も、全てを捨てて走り抜ける女。日本の現代恐怖映画の起点『他人の顔』から50年を経て、『VIDEOPHOBIA』は得体のしれない悪意を新しい形で描き出した。
田野辺尚人
映画本編集者
それは、ウサギに誘われた『不思議の国のアリス』のように、自分というグレイト・ミステリーと向き合う旅だった。怖い。だが、セリフが心に沈殿する。「国中に幽霊がひしめきあっている」今こそ見るべき映画だ。
西山智則
ホラー映画研究家
ぬるっとした空気が漂う映像は謎に満ち、思わず引き込まれてしまった。
色鮮やかな大阪コリアンタウンを舞台に、こんな映画が生まれていたなんて......。
玉本英子
ジャーナリスト・大阪在住
とてつもなく魅惑的で呪われた作品だ。『VIDEOPHOBIA』は不正義を装うことで我々の生きる監視社会を徹底的に脱構築し、日本社会の現実をあざやかにあぶりだす。これは宮崎大祐から届いた、この狂乱の世界で我々はいかにして善く生きられるのかを問う、クールで知的な芸術品だ。
ジュリアン・フォンフレデ
モントリオール新映画祭プログラマー
(敬称略・順不同)